パンデミックのグローバル史のためのオンラインアーカイブ構築
( Online Archive for Global History of Pandemics )
これは2020年度同志社大学新型コロナウイルス感染症に関連する緊急研究課題によるパンデミックのグローバル史のためのオンラインアーカイブ構築プロジェクトの特設ブログです。
本研究プロジェクトの目的は、感染症の爆発的な拡大=パンデミックが人類社会に及ぼす長期的影響を探ることです。気候変動をはじめ様々な要因によって引き起こされたとされる「14世紀の危機」との関係で、1340年代以降、ユーラシア東西で猛威を振るったペストの第二次パンデミックを主に扱います。14世紀から17世紀にかけての時期は、遠距離交易ルートの陸から海へのシフト、内陸から沿海部への世界都市の再配置、チンギス=ハン一族諸ウルスからポスト=モンゴルの近世帝国への権力交替などがみられ、世界史上の分水嶺ということができます。「14世紀の危機」の長期的影響を比較分析することは、新型コロナウイルス感染症が今後人類社会にもたらしうる社会的影響を考えることに繋がると思われます。14世紀のペストの第二次パンデミックにおいては感染の広がりに明らかな地域的偏差があります。ヨーロッパや中東で甚大な被害が知られている一方、インドや東南アジアでは被害の存在がほとんど知られていません。そしてユーラシア東方においては内陸交易ルート、ユーラシア西方においては海上交易ルートでペストが広がったとされています。今回の新型コロナウイルス感染症拡大現象においても、ウイルスの広がりは時期による地域不均衡性が見られました。こうした不均衡性の移り変わりは、14世紀のパンデミックにおいてはもっとゆるやかにみられたとみられます。こうした感染症拡大現象の地域不均衡性とパンデミック後の社会変化との関わりなどを比較を通じて探りたいと考えています。
グローバル地域文化学部・准教授 向正樹
以下は、研究課題提案書の「研究内容・方法」をもとに加筆修正したものです。
本研究は、グローバル史の一環として、ヨーロッパで黒死病と呼ばれたペストをはじめとするパンデミックがその後の世界に及ぼした長期的影響を比較分析する。具体的な作業は、「14世紀の危機」およびそれ以降のペストの感染症拡大およびその社会的影響に関する原資料や人口や災害のデータの集積とオンラインアーカイブの構築である。
「14世紀の危機」では中世温暖期の過剰な農業開発、都市人口増のもと気候不順とペストの流行が引きがねとなったことが知られている。近年、文理協働型の学際研究が行われ、次々と知見が刷新されている。しかし、サイエンス系の研究はまず想定があって検証がはじまる。そこには文献史学の知見も含め全体像を把握する必要がある。また、パンデミック後の長期にわたる社会的・文化的影響を知るためには文献史学の知見が必要となる。そこで文献を扱う研究者の成果を活用できる仕組みを作り上げていく必要がある。パンデミックの歴史は、多言語にわたる文献の渉猟が必要とされる。まずは、原資料とデータの正確さを確保する必要がある。「14世紀の危機」に関しては、とくに中国の感染爆発の実態に不明な点が多い。14世紀前後のデータは不完全であり、扱いには慎重さを要し、文献史学の専門家による緻密なデータ処理が欠かせない。研究代表者らが行うのは、14世紀およびそれ以後の泉州やヴェネツィアといった交易都市についてのデータ集積と公開である。14世紀の「危機」前後の文書や碑文、人口データといった総合的な記録の分析によって、「危機」がもたらした変化をうかがうことができる。14世紀に世界的貿易港であった泉州はその後、衰落するが、それは土砂の堆積による良港としての条件悪化のためとされてきた。しかし、現在も地域のコンテナ港として機能していることを考えると、むしろその他の社会条件の悪化が港湾のメンテナンス不良をもたらしたと推測される。そしてそれはパンデミック後の国際交易システムの変動とも連動している。泉州では14世紀半ばに戦乱により甚大な被害を受けたことが知られている。これとパンデミックとの関わりはどうであったのか。従来、ペストのヨーロッパへの輸出径路は、黒海沿岸のカッファが有力視されているが、泉州からインド洋を超えて、中東・ヨーロッパへ伸びるルートはどうであったのか。従来十分な検討はなされておらず、本研究でその検討材料を提供する。
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